スクワット動作を考えてみる
スクワット動作と聞いて、立位での膝の曲げ伸ばし運動を想像すると思います。
スクワットに何の意味があるのか、2つの側面から考えてみたいと思います。ひとつは筋トレとしてのスクワット、もう一つは運動連鎖としてのスクワットです。
1 筋トレとしてのスクワット
トレーナーなどからスクワットを指導してもらったことがある方は聞いたことがあると思います。
「つま先より膝を前に出さないように」
膝を曲げていくときに重心を後方に置いておくやり方です。重心が後方にあるのにはどのような意味があるでしょうか。
答えは大腿四頭筋、ハムストリングスや大殿筋に負荷がかかるため、筋トレとして適しているということです。膝関節と股関節にかかるトルクを考えるとより大きな筋発揮が要求されます。
同時に重心を後方に置いたままスクワットすると、当然のことながら後ろに倒れそうになります。どこかで重心を前方にもっていかなくてはならないので、骨盤を前傾させて上半身は前傾させることになります。肩でバーベルを担いで行う場合、腰椎を前弯させて上体を起こさなくてはなりません。
筋トレとしてスクワットをするフォームの基本は
つま先より膝を前に出さない
骨盤を前傾させる
腰椎を前弯させ、バーベルの重心の下に上半身を垂直方向へ潜り込ませる
腰を守るためにドローインする
肩甲骨を内転させてバーベルを担ぐ
筋トレの効果や身体の危険性を考えると、このようなフォームになります。スポーツ選手は重いものを持ち上げることも必要なので、トレーニングとして正しいフォームの習得から始めなくてはなりません。
2 運動連鎖としてのスクワット
トレーナーとして正しいスクワットを指導することはよく経験してきました。スポーツ選手であれば体重の2倍のバーベルを持ち上げるくらいにはなってもらいたいものです。重いものを持ち上げるためにどこかを痛めては元も子もありません。
しかし、理学療法士として「筋トレとしてのスクワット」を指導したことは一度もありません。
理由は、その動作を実際の生活やスポーツ動作で行うことがないからです。
理学療法士はどこかに障害を持っている人を対象にしているからとも言えますが、筋トレとしてのスクワットを行うことは弊害が大きいと思っています。
スポーツ選手がトレーニング場でスクワットを行うときは、守られた環境で「筋トレ」をします。きちんと区別してスクワットフォームを指導しますが、グラウンドレベルでは一切別だと思います。
理学療法士としてスクワット動作を行う上で何を目的にしているか。
それはボディーイメージの確認です。スクワットという課題をいくつもの注意点を守って行えるかという確認作業です。
自重のみで行います。その注意点とは
つま先より膝を前に出す
knee-in toe-outしない
重心を前方に、母趾球と小趾球(MP関節部)に乗せる
骨盤を前傾させる(股関節の可動域を使う)
ドローインを意識する
などです。動いているのは足関節、膝関節、股関節のみです。腰椎を動かすことはありません。この運動が連動して行えているか、破綻しているかをチェックします。
joint by joint理論で考えると、例えば膝関節は「安定性」が必要な部分です。スクワット動作で捻じる動きは厳禁です。
足関節は「可動性」が求められる部分です。特に背屈に制限があると重心を前方に移せません。
股関節の「可動性」が一番大切かもしれません。股関節を十分に屈曲できなければ重心を前方に移せません。
腰椎は「安定性」が必要です。スクワット動作で腰を痛めてもいけません。
もし股関節が硬かったら、足関節が硬かったら、代償で膝が捻じれるかもしれません。腰椎が動いてしまうかもしれません。
joint by joint理論はこちら 「joint bi joint理論を知っておくと便利です」
スクワット動作はCKC動作です。抗重力位で決められた動作を行う神経系の訓練です。複数の関節が同時に動きます。それを的確に制御する訓練です。
スクワット動作の破綻からいろいろなことが見えてきます。一つの関節、一つの筋力、バランス能力、ボディーイメージなどスクワット動作で推測される問題点はたくさんあります。
その補足のためにOKCにてそれぞれを改善させることは必要です。
OKC・CKCの概念はこちら 「OKCとCKCを考えてみる」
3 スクワットの目的
そして、一番大切なのはスクワット動作を行う目的を見失わないことです。
筋トレとしてのスクワットの目的は筋力強化です。
運動連鎖としてのスクワットはスポーツ動作に近いですが、実際のスポーツ動作とはまだまだ離れています。
このスクワットを基本としてこの先にスポーツ動作に結び付けていく作業が必要です。
ランニング、ステップ、キック、投球、ジャンプなどほとんどのスポーツは立って動くものです。スクワットを全ての基礎として位置づけ、動作の確認を行ってください。
スクワットで出てきた問題点を改善してから次に進みます。
次の動作で出てきた問題点の原因を修正していきます。
どんどん実際のプレーに近づけていきます。
どんどん無意識の領域に踏み込んでいきます。
正しいスクワット自体も意外と難しいことですが、スクワットの習得はまだスタート段階なのです。
スポーツに限らず、立つ、歩くにとってもスクワット動作は重要な要素です。
そして、怪我の予防にも重要な要素です。
動作の破綻が外傷・障害につながるのならば、スクワット動作は確認しておくべきです。
膝前十字靭帯損傷のメカニズム、シンスプリントの原因、腰椎分離症、鼠径部痛・・・
挙げればキリがないくらいです。
障害の各論も今後載せていきたいと思います。