膝前十字靭帯損傷について3 受傷メカニズム
前十字靭帯損傷をトピックスに数回に分けて書いてきましたが、今回は受傷のメカニズムについてです。
前十字靭帯はどのように断裂するのか、どのような動作が危険なのかを理解することは予防に繋がります。
これまでのブログも参考にしてもらえるとわかりやすいと思います
以前のブログにも書きましたが、前十字靭帯損傷の70%は非接触型で起こります。膝が捻じれてしまういわゆる「knee-in toe-out」の強制が危険な肢位ですが、そのメカニズムを詳しくみていきましょう。
前十字靭帯に負荷がかかる瞬間に切れる訳です。前十字靭帯は膝の伸展・内旋で緊張し、脛骨の前方引き出しを制御しています。それ以上の外力で断裂するということです。では膝が過伸展するような動作が実際の断裂肢位なのかと言われると、そのような状況はほとんどありません。
前十字靭帯の断裂のほとんどは膝軽度屈曲位(5°~25°)、外反位(5°~20°)というデータがあります。「knee-in toe-out」の肢位に近いものがあります。脛骨の内旋・外旋ではどちらの肢位でも断裂は起こり、ふたつの肢位に差はありません。「knee-in toe-out」では脛骨は外旋するため、回旋は受傷機転に関係ないように思えます。
しかし、この回旋が実は大きく関わっているのです。
前のブログにも載せましたが、前十字靭帯単独の損傷は少なく、多くの場合他の部位も同時に損傷します。内側側副靭帯損傷や半月板損傷が主な受傷部位ですが、そのひとつに骨挫傷があります。
膝外反で大腿骨と脛骨がぶつかると、両方の外側の骨を挫傷します。その多くは「大腿骨外顆中央部」と「脛骨外側の後方部」です。脛骨が内旋してぶつかっていることになります。
現在はビデオが発達しているので、画像から断裂の瞬間を分析することができます。実際のスポーツ現場の映像を3次元モデルにマッチさせて解析するのです。
断裂する場合のジャンプの着地を例にとってみましょう。
着地後40msまでに急激な膝外反・内旋が起こります。40ms後に外旋が起こってきます。
40msは0.04秒です。着地後0.04秒の間に切れるのです。
膝外反・内旋によって大腿骨外側は後方変位していきます。その後の外旋によって大腿骨の内側が後方変位していきます。それによって脛骨は前方に引き出されているのです。
0.04秒後から膝は外旋していくので、見た目の上では「knee-in toe-out」そのものになります。
これまでをまとめると、前十字靭帯の断裂は「膝軽度屈曲・外反・内旋+脛骨前方変位」の3次元で負荷がかかったときに起こります。
その後に外旋が起こっていて、見かけ上knee-in toe-outとなっているというのが最近の見解です。
ここからもう少し掘り下げていきましょう。
あえて書きましたが、脛骨が内旋すること、大腿骨が外旋することは相対的に同じことを指していますが、この違いを把握しておく必要があります。
ストップ、カッティング、着地ともに、地面に足が着いているときに断裂します。
遠位(足)が固定されている状態で、膝に負荷がかかるということを忘れてはいけません。
足部は固定されている、膝が3次元に変位する。要は大腿骨が動いているのです。
joint by joint理論において足関節は可動性、膝関節は安定性、そして股関節は可動性が重要になってきます。
前十字靭帯断裂の瞬間に膝自体に問題はありません。足部から地面に固定されているので、足部での制御は難しいと思います。
断裂肢位になってしまう原因は「股関節」と「重心の制御」がとても重要になります。しかも0.04秒の間では能動的に制御できないので予測が大切です。
結論から言うと「重心を前方に置くこと」と「股関節を使って着地すること」が大切です。
この二つができていると膝の軸の近くに重心を置くことができます。
前十字靭帯にかかる負荷を軽減させるためには「体重が軽い方がいい」「加速度は小さい方がいい」「支点・力点・作用点が膝に近い方がいい」ということになります。
体重は受傷時にはどうしようもないことです。加速度も求められているプレーによっては怪我のためだけに変えられるものでもありません。
3つ目の要素は「膝軸の近くに重心を置くこと」ということです。それも予測して、できれば無意識に。
股関節の可動域制限があるとマイナスです。体幹が固定できていないとダメです。臀部の筋力が発揮できていないといけません。そして、常にボディーイメージができているようにしましょう。正しいステップや着地動作を見に付けましょう。
このブログで以前にスクワットについても述べました。「スクワット動作を考えてみる」
バーベルを用いて筋トレの要素以外では、私は重心を後方に置いてスクワットすることを指導したことがありません。スクワット=後方重心みたいな見解を持っている人が多いと思います。
何のためにスクワットをするのかを考えると、怪我の予防とパフォーマンスの向上のためと言えます。
ボディーイメージを常にもっていること、スクワット一つでいろんなことが見えてくることを選手にも理解してもらわなくてはなりません。
スクワットはただのイメージなので、そこから実際のスポーツ動作に結び付けていく作業が必要です。
そこに加速度が加わります。ボールを使っての練習に繋がります。
今回これ以上に話をふくらませると、書ききれません(笑)
前十字靭帯で数回にわけてブログを更新してきましたが、今後はリハビリやトレーニングについても進めていこうと思います。