膝前十字靭帯損傷について5 術後リハビリのプロトコール
前十字靭帯断裂の再建術を前回のブログで紹介しました。 「膝前十字靭帯損傷について4 理学療法士から見た手術法」
今回は術後リハビリのプロトコールを紹介します。
私は理学療法士ですので、ようやくこのトピックスにたどり着いたことになります。(笑)
私が勤務していた病院でのプロトコールを紹介します。最もポピュラーな関節鏡視下での半腱様筋または薄筋を用いた再建術とします。半月板の手術も行った場合はまた違ってくるので、前十字靭帯単独での術後と設定します。
手術当日は疼痛管理、感染予防、ポジショニングが大切となります。当日はさすがに本人は動けないですし、看護師側の対応が主ですが、理学療法士として術前からしっかり説明しておく必要があります。
術翌日~2週
可動域:伸展は2週で0°、屈曲は2週で120°を目標にします。腫脹や浮腫の軽減、皮膚・創部の可動性、膝蓋骨の可動性から入念にリハビリしていきます。このときに防御収縮が入ってしまうことがあると予後が不良になることが多いです。膝の拘縮は完成されないはずなので、2週での可動域確保には強い可動域訓練よりも、その周囲を改善しておけば比較的可動域は得られるはずです。
筋力:大腿四頭筋の収縮を促します。セッティングやSLRを行います。収縮と弛緩が困難なところから始まり、代償なく自動SLR獲得までは早めに獲得したいところです。
荷重:術翌日から荷重開始です。両側でのクォータースクワットをはじめます。これも代償なく行うために、初めは平行棒などに掴まって行うことになるでしょう。リハビリ時は荷重していきますが、術後2週までは日常生活では松葉杖歩行となります。
患部に関しては2週までに獲得しておきたい内容です。患部以外(股関節や体幹)は制限なく訓練していきます。
術後2週~4週
可動域:屈曲120°が確保できていればエアロバイクを始めます。4週までに深屈曲は不可ですが、おおよその可動域制限は解消しておきます。
筋力:大腿四頭筋のセッティングやSLRは筋力強化の要素が強く、できれば負荷をかけていきます。SLRではエクステンションラグがないようにしましょう。
荷重:術後2週で松葉杖なしでの正常歩行獲得を目指します。片脚立位でのバランス訓練なども開始していきます。
術後10日~2週での退院が目標です。
4週までにハムストリングスのストレッチなども取り入れ、退院後の日常生活に支障がないようにするのが目標となります。
術後4週~8週
両脚でのブリッジ動作でハムストリングスの強化を始めます。
術後8~12週
片脚でのブリッジ動作でハムストリングスの強化を進めます。
12週以降にレベルが上がるため、これまでの全ての問題点を解消しておく必要があります。
術後12週(3カ月)
MRIでの診断に異常がなければ、医師の判断のもとにリハビリレベルを上げていきます。
筋力:レッグカール開始
荷重:両側ハーフスクワット、片脚クォータースクワット開始
術後4カ月
ランニング開始、ランジ動作、サイドステップ開始。
術後5カ月
ダッシュ、アジリティー開始。部分的に競技練習に参加。
術後6カ月以降
競技復帰。
私が勤務していた病院は筋力測定器がなかったため、3カ月以降は筋力や周径値、簡易テストや動作確認などで運動レベルを判断しています。
実際の競技復帰は1年後まで想定していることもあります。
ここに紹介したのはプロトコールであって、回復していく道筋です。実際にはこの通り進んでいくかは各々変わってきます。
前回のブログでも述べましたが、実際にこのようにいかない場合にどう対応していくかが理学療法士の仕事です。
このようにいかないとは、リハビリが失敗することが多いということではありません。
このプロトコールは私が作成しました。いろいろな病院やセミナーなどからの情報を統合して作りました。そして判断した結果プロトコールに幅を持たせました。
例えば術後1カ月以降はほとんど内容が変わっていないように見えます。それはなぜか。
プロトコールとは術後に組織がどう変化していくかで作られています。
炎症からはじまり、再建靭帯や採取後の筋などがどのように回復していくかは、どの人にも共通していることです。
骨折が治癒していくと同じように骨孔は塞がっていきます。再建靭帯が骨にしっかり固定されるまでには2~3カ月かかります。
再建靭帯は一度血流が遮断されています。自分の身体の一部に取り込まれる過程で毛細血管が再生されていきます。術後4~5カ月に組織は切れやすくなります。
半腱様筋を切り取っています。残された内側ハムストリングスは半膜様筋です。半膜様筋は紡錘筋なので、羽状筋とははたらきが異なります。リハビリ過程で半膜様筋が肉離れを起こすことはあってはならないのです。
このように決まり事を作るのがプロトコールです。
プロトコール以外のことはその場で判断して調節する必要があります。だからプロトコールに載せられないのです。
このプロトコール通りに進めていくのは理学療法士として当然のことです。このプロトコールに載っていないことをどのようにリハビリプログラムに取り入れていくかが最も大切な仕事です。
「手術法のガイドライン」を作っているのも医師、「現場で判断してコントロール」しているのも医師です。
その両方があってその患者さんに最適な手術が行われます。
リハビリも同じで、プロトコールだけを見て進めていくことでは理学療法士として半人前だと思います。
次回は私が経験した前十字靭帯再建術後リハビリでの実際の症例を紹介したいと思います。
上手くいった例か、上手くいかなかった例かは… どちらかはまだ決めていません(笑)