膝前十字靭帯損傷について6 術後リハビリの症例を紹介
前十字靭帯をトピックスに数回に渡りブログを更新してきましたが、前回は術後リハビリプロトコールを紹介しました。
以前勤めていた病院でのプロトコールになります。細かな設定も必要ですが、術後プロトコールは身体の回復に応じて作成しているものです。
同じ手術であれば再建靭帯などの回復過程は細胞レベルでは同じはずなので、それに沿ったプロトコールとなります。
しかし、その人の回復過程は状態や機能によって一人ずつ変わってきて当然です。そのため、作成したプロトコールにはあえて細かな設定を設けていない。この時期に最低限ここまでできていなくてはならないこと、やってはいけないことの取り決めをプロトコールで確認しているといったことが前回のブログの内容でした。
今回は実際経験した症例をもとに、このプロトコールに沿って解説していこうと思います。
10代女性の高校女子サッカー部。試合中のステップ時に受傷し、前十字靭帯断裂と内側側副靭帯損傷を合併していました。受傷直後に来院し、その時からリハビリを開始しました。
術前リハビリでの留意点
手術の希望があり、手術することでの長所・短所を説明。手術するのであれば(しなくても同じですが)、痛みと腫脹がないこと、膝の可動域制限がないこと、筋力をできるだけ高めておくことをしっかりと話しました。このとき、どんな人なのかを観察し、会話の中から意思を強く持った、しっかりとした印象を受けたことを覚えています。
受傷直後から痛くても膝を動かしたり、筋トレをしたりしません。
関節の拘縮は無動状態(ギプス固定など)で2~3週で起こってきます。この時に関節が拘縮することを防ぐために頑張って動かすことは逆効果です。痛みで防御収縮が出現し炎症を増悪させることで、2~3週後も可動域が改善しないことの方がよほど怖いことです。
この状況で筋力が低下することは想定内です。痛みで発揮できないからです。これも筋力低下を恐れて、この時期から筋トレをすることは逆効果です。
さきほどの説明と矛盾するかもしれませんが、このことを本人に理解してもらはないと、術後のリハビリにも大きく影響していきます。術直後も同じ痛みと腫れの状況でリハビリが開始されるからです。
膝の可動域を改善するために、今は動かさない。筋力低下を防ぐために、今は筋トレしない。
逆を言えば、手術までに膝は動いていること、炎症が治まればガンガン筋トレするということです。
まず疼痛管理とポジショニングが大切です。痛みで防御収縮が出ていました。腫れて皮膚も突っ張っていました。膝の伸展制限が残っていると、再建靭帯の固定時に影響が出ることと、リハビリの予後が悪いというデータがあります。伸展の制限因子になり得る、膝蓋骨の可動性と膝蓋下脂肪体の引き出しに制限がありました。
膝の曲げ伸ばしはしません。でもこれだけやるべきことがあるのです。
大腿四頭筋に力も入れられていません。これは疼痛が原因なので無理に筋トレはしませんが、収縮と弛緩の確認は常に行っていく必要があります。
そして、痛みで正常な歩行ができていないのが大きな問題です。できるだけ正常歩行に近づけるように松葉杖歩行で荷重はしてもらいます。
通学などの必要最低限の移動を親の送迎が可能なのか、部活には顔を出さなくてはならないのかを確認します。痛みで脚を引きずって歩くことをできるだけ少なくしてほしいのです。
これだけのことを受傷直後の初対面で行っています。その中でも一番欲しい情報は「どんな人なのか」です。
彼女の場合は、痛みなどでの問題は大きかったですが、この先の手術もリハビリも乗り越えられると第一印象で思ったことを覚えています。
手術翌日~2週
術前リハビリでは良好な状態まで回復し手術を迎えています。手術翌日からリハビリ開始です。
やはり、一番の問題は痛みでした。受傷直後よりも痛み、腫れています。昨夜は痛みで眠れなかったようですし、なにより意欲的にリハビリに挑めると思っていた彼女から弱音が聞こえてくるのです。
痛みが強いので仕方ありません。その日はほとんどリハビリにならなかったことを覚えています。
これも想定してはいることです。そのためもあって術前リハビリでしっかりと伝えてあるのです。疼痛管理とポジショニングの重要性からもう一度徹底します。松葉杖もつけない状態なので、車椅子を指導しました。
次の日にはやや痛みも改善しましたが、思ったようにリハビリは進めませんでした。膝の曲げ伸ばしはできず、防御収縮の解消と軟部組織を動かすことくらいで終了したと思います。
徐々に回復はしましたが、2~3日間このような状態が続いていたので、この時にプランを練り直しました。そろそろ歩かなくては今後どんどん遅れていく恐れが出てくるからです。
可動域、筋力も大切ですが、歩く(荷重する)ことが一番のリハビリと言えます。彼女が歩くにはどうしたらいいのかを考えたときに、トイレに行くことなど、入院生活の見直しから進めていきます。歩く動機を共有するということです。
松葉杖をついても思ったように荷重できません。遊脚でも股関節の屈曲が使えずに脚を棒のように振り出します。多少の跛行は目をつぶり歩くこと自体に目的を求めました。
術後2週で伸展0°、屈曲120°、松葉杖なしでの正常歩行獲得。これを逆算すると歩いてほしかったのです。このときから退院時期を保護者も含めて相談しています。術後2週くらいを目標としていましたが、退院後の生活の確認を再度した覚えがあります。松葉杖をついてでも2週後には正常歩行で退院してもらいたかったのです。これが達成できるのかを本人と保護者にも話をしました。
術後2週~
術後2週の時点で術数日後に感じた心配は少なくなっていて、松葉杖ですが正常歩行に近い状態にはなっていました。伸展制限が残っていたのが一番気にかかることでした。この時点で予定通り退院となりましたが、外来でのリハビリには頻繁に来てもらいました。
前十字靭帯損傷の術後に伸展制限に難渋することは多く経験します。前十字靭帯にかかる負荷を考えると、脛骨を前方に引き出したくないので、伸展制限が少しあるくらいが安定した膝とも思えます。しかし、スポーツをする上で伸展制限が1°でも残っていることは大きなマイナスです。
彼女の場合、伸展制限の解消まで4週ほどかかったこと、松葉杖なしで通学に支障がなくなったことも4週ほどかかったことを考えると、この時点でプロトコールから遅れていることになります。
その後のリハビリは主にいわゆる筋トレがメインになっていきます。
3カ月のジョギング開始時期までには、大腿四頭筋、ハムストリングスともに健側の6割以上の筋力まで回復しておく必要があります。これは文献でも言われていることです。
そこから逆算して、3カ月以前にこのレベルまで達していれば、3カ月のリハビリプランに近づけて前倒しをしてプログラムを変更します。
決してジョギングを許可することや、片脚スクワットなどプロトコールに載せているプランを前倒しするわけではありません。
スプリットスクワットやニーベントウォークなど片脚スクワットに準じたプログラムを進めておきます。
彼女の場合、サッカーをしていることもあって筋力の回復は順調でした。
3カ月の時点でプロトコールに追いついたことになります。
その後は加速度を上げる、ステップ、ジャンプ、キック動作などリハビリ内でできることと、グラウンドで個別メニューでできることの確認をしていきます。リハビリに通う頻度も減っていきます。
できればグラウンドレベルまで一緒に確認したいところですが、この先はトレーナーがその役割となります。トレーナーがいればコンタクトを取って随時情報を共有していくことが大切です。
彼女の場合、チームにトレーナーはいませんでしたので、全て個人で行うことになります。
部活時間、自分で個人練習を考えて自立する。そのような選手になってもらうためにずっとリハビリ中も心がけて対応してきました。
1 リハビリ中に言われたことすらできない選手
2 言われたことはできるがそれ以上できない選手
3 自分に必要なことを理解して、言われなくてもやれる選手
3番目の選手になれるように私は初対面から感じていることが、「どんな人なのか」なのです。
自分でできない選手であればできるようにすることが、リハビリで重要な関わりだと思っています。
そして彼女の場合、3番目の選手でした。術直後は凹んでいましたが、第一印象のままの選手でした。それがあるから、術後2週でできているはずのことが遅れたことにも焦りはありませんでした。
膝に大きな問題があれば理学療法士としてスキルを発揮します。できるようにすることが仕事です。プロトコール通りに進めていくことに目標を置きます。
膝に大きな問題があるのかに関わらず、どのような人、どのような選手かが大きく予後に関わってきます。それを見極めて対応することが理学療法士として以上に大切な仕事だと思っています。
リハビリ、トレーニング、予防、パフォーマンス…何に着目しても結局はその人次第で、そこに着目するからこそ難しいですし、楽しいことと感じています。
その後彼女はサッカーに復帰し、無事引退までプレーを続けています。高校でサッカーは辞めてしまったようですが、大学生になったときに会いに来てくれました。今では勉学に励んでいます。
自分の意志でリハビリにも意欲的に臨んだ彼女です。その後の人生もしっかりと歩んでいけると思っています。